キャシー・シーガル・ガルシア (Cathy Segal Garcia) : INTERVIEW

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第1回目は、米国ロサンゼルスよりキャシー・シーガル・ガルシアさんのインタビューをお届けいたします。

“日本のジャズシンガーのみなさんへ”

Cathy Segal Garcia  バイオグラフィー

Cathy Segal Garcia

Cathy Segal Garcia

キャシー・シーガル・ガルシアは米国ボストンにて音楽一家に生まれ、1972-1975年バークリー音大に在籍。卒業後はサンフランシスコ、ロサンゼルスと拠点を移し、継続的に著名なミュージシャンとの活動を含む何百もの演奏活動やティーチングを行ってきた。

エデュケーターまたジャズシンガーとして世界中を旅し、1985年より来日、主に大阪を中心にピアニストのフィリップ・ストレンジ氏と多くのレコーディングや演奏、教育活動を展開。

キャシーはロサンゼルスでジャズ・シーンへの大きな貢献から皆の尊敬を集め、”Living Legend”を受賞するなど、非常によく知られている。過去に9つのレコーディングを行い、現在は10作目を製作中。

「五感に訴える声と、粋なハーモニー。キャシーの音楽は暖かく、繊細で優美かつ明瞭なジャズ・ヴォーカライジングのモデルだ。」Don Heckman(LA Times)

インタビュー

 

  • こんにちはキャシーさん!日本でのワークショップやギグについてのお気持ちをお聞かせくださいますか?  (2015年秋の滞在について)

日本に行くのはとっても楽しみよ!

何年もの間ずっと行き続けているし、土地にも言葉にも人々にもとても慣れて、私にとって日本は第二のふるさとのようなものだと感じています。今回はまず福山に行って、そのあと東京に行くわ。

 

  • 日本に行くようになった経緯は?日本のどこが好きですか?

ずっとまえのことになるけれど、私は演奏活動のためだけに日本に行き始めました。福岡で演奏した時に甲陽音楽学校の校長先生とお会いして、学校のある地域に招いてもらって、ツアーもさせていただいて。

学校がブッキングの仕事もしてくれたし、そこで教えたりもしたんです。それから今までの間はプライベートでのティーチングもしてきて(かなり昔に東京でも教えていたことがあったけれど) ほとんどは大阪エリアに行っていましたね。

もちろん、日本に行くのはとても楽しいです!私は本当に日本人の生徒さんを教えることに多くの喜びを見出しているの。どういうわけか、多くの日本人のジャズシンガーのみなさんは耳がよくて、ジャズがどのように成り立っているかを生まれながらに理解できるセンスを持っているんです。

私の見解では、みんな人生のとある時期にカラオケをした経験があるというのも大きい要素だと思うけれど、それに加えて、日本の文化が特定のクオリティの芸術によってできていることも関係しているでしょうね。食べ物をとても繊細な方法で料理しふるまうことは、日本人にしてみればとても日常的なことかもしれないけれど、アメリカ人にしてみればすごく美しく繊細で優美な芸術のように見えるのです。

それと、小さな場所をお庭にすることみたいな、コンパクトな空間を何か特別なものにする必然性というのもあるでしょうね。ある限られたスペースで、特定の要素を用いてなんらかの大きな空間を感じさせるようなものを創るということを、日本の人は必然的に理解しているんじゃないかと思っているんです。

私はこのことは「ジャズとは何か」を反映していると感じています。曲にはフォームがあって、そのフォームの中でダイナミクスやリズム、ハーモニーを上手く使ってクリエイティブにならなくてはならないですからね。それから、日本人の方々との私の個人的なお付き合いも、私にとってはとても特別なものです。

私は目の前の人をすぐに好きになれる性格みたいなんですけどね。生徒さんとのコミュニケーションも大変じゃないし、温かい気持ちで教えることができます。私にとって日本はとてもピースフルな場所で、食べ物も土地も人も大好きです。日本での滞在は、私を特別な気分にさせてくれます。

 

  • キャシーさんがこれまでにもっとも影響を受けたミュージシャンは誰ですか?

う〜ん、それは難しい質問だわ!だってお気に入りのミュージシャンはたくさんいるんだもの。でもね、敢えて言うとしたら、私がアーティストを尊敬するいちばんの理由は誠実さです。 だから、音楽のスタイルを問わず、そのアーティストが彼らの創造性に対して正直であれば、私はたいてい彼らを尊敬しますね。

私はね、シンガーとインストゥルメンタルを同じくらいよく聴くの。私の大好きなシンガーを挙げると、Andy Bey, Nancy King, Bobby McFerrin, Cassandra Wilson, Elis Regina, Mary Stallings, Norma Winstone, Joe Williams, Frank Sinatra かな。シンガーは録音によってよい時もそうでない時もあるから、ここに挙げていなくても素晴らしいと思っている人もとてもたくさんいますよ。

それから、私の好きなミュージシャンは John Scofield, Weather Report, Billy Childs, Phillip Strange, Bill Evans, Jaco Pastorius, Kenny Werner, Cannonball Adderly, Chick Corea。すごくたくさんいるし、その時の気分によっても違うのよね!

 

  • ジャズを歌うことの中で、何がいちばん大好きですか?ご自分のジャズシンガーとしての強みは何だと思いますか?

私はね、ミュージシャンと一緒に魔法の瞬間に到達するのが大好きなの。魔法の中にいるような感じ、ミュージシャンと一緒に音楽の神様のいる場所にいくような感じね。そこではみんな同じ「空間」にいて、起きるすべてのことがパーフェクトになるの。

私にとってパーフェクトっていうのはそういう意味なのよ。(ピッチやリズムがメトロノームのようにきっちり合うという完璧さではなく、音楽的に特別なものをみんなで生み出せたということがパーフェクト)

私の長所は、その魔法のような場所にいけること。リズム感も強いと思うし、タイムもいい、自由にリズムを崩して歌うのも得意です。ハーモニーの感覚もいいと思う。ハーモニーの中で変わった音を選んで歌えるんです。

バンドやお客さんを心地よく、リビングルームにいるような気持ちにさせることもできます!それから、バラードを歌う時は、人々を温かな気持ちにして感動させることができます。

 

  • ジャズボーカリストとして最も大切にしていることは何ですか?

私のレパートリーのは500曲くらいあります。特別なコンサートの時は、前もってセットリストを決めることもありますが、ほとんどの普段のギグでは、自然発生的にその場で決めています。その夜の気分、お客さん、ミュージシャン、自分の声の調子などに合わせて。

私はいつも音楽の魔法の中にいたいんです。魔法が起きている、今この目の前の瞬間を感じることの大切さに気づいたの。たいていのプロフェッショナルのプレイヤーは、その時起きたこと(例えばあなたがミスをだと思うようなことであっても)を深刻にジャッジしすぎないようにしています。

その瞬間を感じ続けていなくてはならないし、その次の瞬間にも注意を払わなくてはならないからです。これは物事の見方としても真実だと思うし、ハーモニーや素晴らしい歌唱、即興/スキャットだって、次に何が起きるかを感じていることは大切ですよね。過去を振り返ってばかりいる時間はないのです。

 

  • レコーディングについてはどうですか? CD製作のこともお話ししていただけますか?制作の過程のどこが好きでしたか?

じつは、どのCDが私のお気に入りかは決められないの。なぜかというと、どの作品を作る過程にも特別な時間があったから。どの作品も私の心の限りを注ぎ込んで作ったの。だから振り返ってみたり聞き返したりしてみると、自分がよいと感じたものを作品に注ぎ込んだ、その瞬間の気持ちを思い出しますね。

それから、レコーディングはとてもチャレンジングなことだし、ライブパフォーマンスとは違う経験です。とても深い学びを得られると思っています。

 

  • 指導者としてはどんなことに最も気を配っていらっしゃいますか?

私は、生徒さんが何を感じているかを見て、自分も感じ取れるようにしたいと思っています。

なぜ、その生徒さんはためらっているのか
体のどこの部分が上手く機能していないのか
歌のどの部分を伸ばしたらよいのか
考え方のどの部分を変えたら上手く行くか
どのように上達していけそうか
彼らが伸びていくためにベストな方法を理解してもらい、アクションを起こせるようになってもらうために自分は何ができるのか
教えている間、自分はどれほど相手に親切になれるか
生徒さんが実験的な試みに対して安心して取り組めるようにできるか
自分自身が何を学ぶ必要があるかを知ってもらえるようにできるか

といったことを考えています。

 

  •  英語がセカンドランゲージの生徒さんに英語の発音、イントネーション、enunciation: 滑舌(発語の仕方) などについて教えていただけますか?

もちろん、簡単なことよ!たぶん生徒さんにとっては、enunciation (滑舌/発語の仕方) がその中だと一番難しいかもしれないですね。ときどき、口の動かし方や舌の位置などを直すために、たくさんの練習が必要になることがあります。

 

  • 歌詞の解釈についてはいかがでしょうか?ネイティブでない人にとって、何が大事なポイントだと思いますか?

セカンドランゲージの人に歌詞の解釈を教えるのはとても楽しいですね。その言葉の意味を本当に理解できたときは、すごく衝撃的な感じですよね!

辞書を使ったり親切で理解のある先生と学ぶことで、同じ曲でもそれまでと全く異なる考え方で歌えるようになりますよ。

 

  • レッスンやワークショップは録音しても大丈夫ですか?キャシーさんのレッスンやワークショップを最大限効果的にするためのよいアイディアがあったら教えてください。

絶対に録音することをお勧めするわ!同じ言語でしゃべる先生と生徒同士でも、これは大事なことです。どんなにその瞬間が素晴らしかったとしても、レッスン中に話したことはつい忘れてしまいがちですから。

最初の数回のレッスンは、その録音を聴き返してメモを取り、印象的な場面や先生が重要だと強調していた部分や、生徒さん自身が重要だと感じた部分を書き出すこともお勧めします。これは学んだ情報を深く記憶として定着させるために、とても役に立つ方法です!

 

  • ワークショップではどのようなことを教えていらっしゃるのですか?もう少し詳しく教えていただけますか?

発声とヴォイステクニックのワークショップでは、まず体が実際にどのように動いているのかといった基本的な情報をお伝えします。何を考えて歌うとよいかをいつも思い出させてくれるような効果的なアイディアや、自分自身をモニターしてよりよい声を出すための方法を知っています。

次に、一人一人の抱えている発声に関する問題を教えてもらいたいです。なぜその問題が生じているのかを理解してもらうことで、改善できるようになりますよ!

スキャットに関しては、その方法をわかりやすく説明することが大好きです。誰でもスキャットできます!誰でも、スキャットを上達させることができます!生徒さんたちはワークショップ中にスキャットをして、楽しいと思えるようになります!! これも、私が保証します!!!

伴奏者のいるパフォーマンスのワークショップについてですが、歌を上達させるためには、自分より上手なミュージシャンとプレイをすることがベストだと思っています。

歌い手であること、そして一人のミュージシャンと美しい音楽を創ることは、信じられないくらい素敵な経験です。それこそ私たちシンガーの生きがいであり、私たちが歌いたいと思う理由です。素晴らしいミュージシャンと音楽の魔法を作ること。それは、成熟された音楽のあり方と言えるでしょう。

素晴らしいミュージシャンと演奏するという経験ができ、個人的に温かい批評をその人から得ることができるのはこのワークショップならではことだと知って、みなさん参加してくれています。それから、長い間プロフェッショナルのシンガーとして歌ってきた私の評価も聞くことができるし。

私はもう50年もの間ギグをやってきているのよ!数百人のミュージシャンと演奏してきたの。それに、30年間、世界中で教えています。こういうワークショップはいつだって生徒さんの歌をよい方向に変えることができるものですよ!

 

  • 自分自身をいつもクリエイティブに保ち、周りの人みんなに与え続けるための方法を教えてください。

私は、人助けをするときには、自分も助ける、という哲学を持っています。どんな問題もそれに向き合うための能力や責任を負える能力があれば対処可能だと感じています。だから、周りを見渡し、観察して、どこに改善の余地があるのかを把握します。それから、その問題を解決するための何かを創り出すために行動するんです。

面白くて楽しい、かつ人の役に立つ可能性が見えて来る、そのときが好きなんです。自分の周りに、よい人を集めるようにもしています。心が美しく、多くの人のためによいことをしたいと思ってくれる人たちです。

私は、ここに住み始めてからの38年間、素晴らしいジャズのコミュニティーを創ることに尽力してきたと思っています。分かち合い、一緒に築き合うことはみんなにとってもっともよいことだったと思っています。

 

  • インタビューの最後に、ジャズのどんなところがいちばん好きか、教えて下さい。日本のジャズシンガーのみなさんにメッセージがあればお願いいたします。もしL.A.を訪れたいという方がいたら、歓迎していただけますか?その他にも何かコメントしたいことがあればお願いします!!

L.A.のジャズは年々変化していて、常に成長し続けています! 今ここで何が起きているか、その一部を担うということは本当に面白いことだと感じています。人生のすべてを素晴らしいミュージシャンになることや、音楽の魔法を生み出し世の中に送り出すことに捧げているミュージシャンがたくさんいます!!

2016年の2/17~23 (仮予定) でインターナショナルな5日間のワークショップを企画している理由の一つに、アメリカの生徒さんやミュージシャンに海外からの生徒さんも加わってもらい、世界の音楽の中心の一つであるL.A.で学んでもらいたいということがあります! ハイプロフェッショナルのミュージシャンやヴォーカルの先生たちとプライベートレッスンをしたり、ライブを見に行ったり、一週間音楽に没頭することを想像してみてください!人生が変わりますよ!

それからもちろん、私の予定さえ合えば、いつでもここに来て私と一緒に勉強するのは大歓迎です。私がやっているワークショップも含めてプライベート・レッスン、 ミュージシャンとのリハーサル、ギグを組むことだってできます! 宿泊や移動についてもお手伝いできますよ。

 

  • ご協力どうも 有難うございました!!

*こちらは2015年10月に行われたインタビューです。